通信会社のソフトバンクが、電池メーカーに転身しようとしている。しかも作るのは、水で動いて燃えない電池だ。
ソフトバンク、「水の電池」国産製造参入を発表——2030年売上1000億円目標
2026年5月11日、ソフトバンクは国産バッテリー事業への参入を正式発表した。舞台は大阪府堺市にある旧シャープの液晶工場跡地。約45万平方メートルの広大な敷地に、AIデータセンター「AXファクトリー」と蓄電池工場「GXファクトリー」を並べて建てる計画だ。
電池の内部を満たす液体(電解液)に真水を使うため、原理的に発火しない。これが今回の核心である。
製造は2027年度に開始し、まず自社のAIデータセンターへ導入する。その後、電力会社・工場・一般家庭への外販と海外展開にも踏み出す構想だ。2030年度の売上目標は1000億円以上。通信会社がなぜ電池に目をつけたのか——その答えは、急拡大するAIデータセンターが抱える「ある問題」にある。
リチウム電池が、都市のデータセンターに「入れない」理由
AIが普及するほど、データセンターの電力消費は膨らむ。停電で処理が止まれば損失は計り知れないため、非常用電源として大量のバッテリーを常備する必要がある。AIブームはそのまま、電池の需要爆発を意味する。
ところが、スマートフォンや家電に広く使われているリチウムイオン電池には「燃える」という根本的な弱点がある。電池の内部に燃えやすい有機溶媒(石油系の液体)が使われており、衝撃や過充電をきっかけに発火することがある。1台なら小さなリスクだが、数百台・数千台と積み上がれば話は変わる。
日本の消防法は、同じ室内に設置するバッテリーの合計容量が20kWhを超えると、特別な防火設備の整備や一定の離隔距離の確保を義務づけている。20kWhとは、家庭用蓄電池の2〜3台分に相当する量だ。データセンター規模の設備を入れようとすれば、その何十倍・何百倍もの容量が必要になる。
都市部のビルにデータセンターを構えようとすると、この規制が重くのしかかる。防火設備の増強にはコストがかかり、離隔距離の確保にはスペースが要る。土地が高く、建物が密集する都市では、どちらも簡単には用意できない。AIインフラの拡大を、電池の安全性が足止めしている——それが今の構図だ。ソフトバンクが「水で動く電池」に目をつけた理由は、ここにある。
「水なのにリチウム並み」——技術の中身
燃えるのは電解液。水に替えると燃えようがない
電池が燃える原因は、外側のケースでも金属部品でもない。内部を満たす液体——「電解液」にある。一般的なリチウムイオン電池の電解液には有機溶媒、つまり石油系の燃えやすい液体が使われている。衝撃や過充電のはずみに発火するのは、この液体に着火するからだ。
ならば、燃えない液体に替えればいい。ソフトバンクが採用した電池は、電解液に真水を使う。水は燃えない。それだけで、発火リスクは原理的に消える。主原料は亜鉛で、国内での調達も可能だ——リチウムのように特定の国への依存が生じにくい点は、後で触れる安全保障の話にもつながる。
水系電解液でリチウム並みのエネルギー密度——ソフトバンクが「世界初」と発表
「水系電解液では性能が出ない」——それが長年の業界の常識だった。水を電解液に使うアイデア自体は以前からあったが、エネルギー密度(どれだけの電力を詰め込めるか)でリチウムに太刀打ちできなかった。
これを覆したのが、韓国スタートアップCOSMOS LABとの共同開発だ。水系電解液でリチウムイオン電池と同等のエネルギー密度を「商用レベル」で実現したとソフトバンクは発表しており、「世界初」と位置づけている。ただしこれは同社の自己申告であり、第三者機関による独立した検証・認証については現時点で明らかにされていない。
製品は20フィートコンテナ1台に収まる形で、蓄電容量は5.37MWh(メガワット時)——一般家庭なら約5か月分の電力を1台で貯められる量だ。データセンターはこれを複数台並べて使う想定だ。「燃えない」と「リチウムと同等の容量を確保できる」——この2つが同時に成り立つことが、この技術の核心だ。
旧シャープ堺工場で2027年製造開始、国産サプライチェーンへ
データセンターと電池工場を同じ敷地に
製造拠点に選ばれたのは、大阪府堺市の旧シャープ液晶工場跡地だ。ソフトバンクが約1000億円で取得したこの敷地に、AIデータセンター「AXファクトリー」と蓄電池工場「GXファクトリー」を並べて建設する。電池を作る場所で、そのまま使う——「地産地消」のモデルだ。2027年度に製造を開始し、まず自社データセンターへ導入する。
リチウム・コバルト不要——中国依存からの脱却も視野に
この電池には、安全性とは別のもう一つの意味がある。
リチウムイオン電池の主原料——リチウム、コバルト、ニッケル——は、採掘から精製まで中国への依存度が極めて高い。貿易摩擦や地政学的なリスクが高まる中、「原料が突然入らなくなる」という懸念は、業界では現実の問題として語られている。
この電池の主原料である亜鉛は国内でも調達が可能だ。中国に頼らないサプライチェーンを自前で構築できる——経済安全保障の文脈でも注目される理由はここにある。
蓄電池の市場自体も急成長している。国内の蓄電所市場は2030年度に4240億円規模へ拡大すると予測されており、2024年度比で9.4倍にあたる(矢野経済研究所)。
ソフトバンクはAI関連事業全体に3年間で1兆円を投じる方針を掲げる。通信会社が電池工場を持ち、データセンターを電力ごと自給する——その転換が本物かどうかは、2027年の工場稼働が一つの答えを出す。

