建設現場の安全管理は、ベテランの「目」と「経験」に支えられてきました。でも人手不足が進むいま、その目が足りない現場が増えています。
NTTドコモビジネスが提供する「安全支援アプリ」は、現場写真を1枚撮るだけでAIが危険箇所・対策案・過去の事故事例・関連法令まで一気に教えてくれるツールです。この記事では、具体的に何ができて、どこに限界があるのかをフラットに整理します。
写真1枚で建設現場の危険を見抜く
安全支援アプリは、NTTドコモビジネスとEARTHBRAINが共同開発し、2025年11月に提供を開始したクラウドサービスです。EARTHBRAINはコマツなどが出資する企業で、建設業のDX(デジタル技術で仕事のやり方を変える取り組み)を推進しています。
アプリは、建設現場で使うさまざまなツールを集めたウェブサービス「LANDLOG」上で動きます。
操作はたった2ステップです。
専用のカメラも端末もいりません。ふだん使っているスマートフォンがあれば、それだけで始められます。
ブラウザからアクセスするクラウド型なので、アプリのインストールも不要です。
![[図解] 左から「①スマホで現場写真を撮影」→「②アプリにアップロード」→「AIが分析結果を表示」の流れを示すフロー図。AI分析結果の枠内に「危険指摘」「対策案」「事故事例」「関連法令」の4項目を吹き出しで表示](http://ai-mikata.com/wp-content/uploads/2026/06/autopress-49.webp)
AIが検出する危険の種類
写真をアップロードすると、生成AI(人間のように文章を組み立てられるAI)が画像を読み取り、4種類の情報をまとめて返してきます。
①発生リスクのある事故と対策案
「足場の手すりが外れている」「開口部に覆いがない」など、写真に写っている具体的なリスクを指摘し、「こうすれば防げる」という対策案もセットで出てきます。「危ないのは分かったけど、どうすればいいの?」で止まらないのがポイントです。
②過去に発生した類似事故の事例
似た状況で実際に起きた事故の実例が表示されます。教科書的な注意喚起よりも、リアルな事故事例のほうが「他人事じゃない」と感じてもらいやすくなります。
朝礼の安全教育にもそのまま活用できる情報です。
③関連する法令の条文
写真の状況に該当する法律の条文を自動で引き当てます。この仕組みは次の見出しで詳しく触れます。
④AIへの追加質問
結果を見て気になったことがあれば、その場でAIに追加の質問ができます。「この高さの足場だと、具体的にどの規則が適用される?」といった掘り下げも可能です。
従来なら、危険箇所の洗い出し、過去事例の検索、法令の確認はそれぞれ別の作業でした。安全支援アプリは、安全チェックの「下調べ」をまるごと一瞬で終わらせます。
関連法令を自動で紐づけ
4つの出力のなかでも、法令の自動紐づけは地味ですが価値の大きい機能です。
労働安全衛生法は、職場での事故や健康被害を防ぐための法律です。建設現場では安全管理の記録や作業員への安全教育が義務づけられていて、違反すれば罰則もあります。
ただし条文の量が膨大で、目の前の状況にどの規定が当てはまるのか判断するには経験が必要です。安全支援アプリは写真の内容から該当する条文を自動で引っ張ってくるので、ベテランでも手間がかかる「法令の下調べ」をAIが代行してくれます。
ただし、AIが示す法令情報はあくまで参考です。最終的な判断は安全管理者が行う必要があります。「どの条文を見ればいいか」のあたりをつける下調べとしては十分に実用的ですが、法的な判断をAI任せにはできません。
分析結果はPDFとして保存・印刷できます。LANDLOG公式サイトでは「次世代の安全掲示板」と表現していますが、朝礼のKY活動(作業前に「今日はどこが危ないか」をみんなで話し合う取り組み)や安全会議の配布資料に、AIの出力がそのまま使えます。
![[シーン] 若い現場監督がスマートフォンで足場周辺を撮影している場面。画面にはAIの分析結果が表示されている](http://ai-mikata.com/wp-content/uploads/2026/06/autopress-48.webp)
経験の浅い若手にとって、現場の危険を見抜くのは簡単ではありません。人手不足でベテランがそばにいない場面も増えています。
安全支援アプリは、写真を撮れば誰でも一定レベルの安全確認ができる「もう一人の目」です。ベテランの代わりにはなりませんが、見落としを減らすための道具としては十分に機能します。

ちなみに、NTTドコモビジネスには「KYアシスト」という別の安全管理ツールもあります。名前が似ていますが、役割はまったく異なります。
KYアシストとどう使い分ける
2つのツールの守備範囲
KYアシストは、前述のKY活動の記録と管理をデジタル化するツールです。紙のKYシートの作成・承認をスマホやPCに集約し、過去の事故事例をデータベースから引き出してシートに反映できます。ベテランの知見がチーム全体に行き渡る仕組みです。
一方の安全支援アプリは、現場写真から「いま、ここにある危険」をAIがリアルタイムで指摘するツールです。
| 安全支援アプリ | KYアシスト | |
|---|---|---|
| 目的 | 写真から危険をAIが即検出 | KY活動の記録・管理をデジタル化 |
| 使うタイミング | 現場巡回中・作業中 | 作業前のミーティング |
| 主な使い手 | 現場監督・若手職員 | 作業チーム全員 |
| 出力物 | 危険指摘・対策案・事故事例・法令 | デジタルKYシート |
「どっちがいいか」ではなく、そもそも守備範囲が違います。
写真ベースでリスクを即座に把握したいなら安全支援アプリ、KY活動の記録・管理を紙からデジタルに移行したいならKYアシストです。
既存の安全管理と並行して使えるか
多くの現場では、紙のKYシート・安全台帳・ヒヤリハット報告書といった既存の仕組みがすでに回っています。新しいツールを入れるとき、「いまの運用を全部変えないといけないのか?」は当然の不安です。
結論から言うと、安全支援アプリはいまの運用をそのまま残して「上乗せ」できます。
アプリはブラウザで完結するクラウドサービスなので、既存の安全管理ソフトや社内システムと干渉しません。紙のKYシートも安全台帳もこれまで通り使い続けられます。
「入れ替え」ではなく「追加」。既存のやり方を変えずに始められるのが、導入のハードルを下げている
具体的な使い方としては、AIの分析結果をPDFで保存し、KYシートの参考資料として添付する方法が一番シンプルです。朝礼で「AIが今日この現場で見つけた危険」を共有すれば、従来のKY活動がそのまま厚みを増します。
ただし、既存の安全管理ソフトとのデータ連携(API連携など)は、現時点の公開情報では確認できていません。出力データは手動でPDF保存・共有するかたちになります。
KYアシストと組み合わせるなら、KYアシストでチームが予測した危険と、安全支援アプリがAIで検出した危険を突き合わせるという使い方もできます。予測と現実のズレが見えるようになるので、「こういうリスクは見落としやすい」という気づきを次の安全教育に活かせます。
予算が限られるなら、どちらから入れるか
両方いっぺんに入れられるのが理想ですが、中小の建設会社では「まず1つ試してみたい」というのが現実的な判断です。
判断軸はシンプルで、いま一番困っていることに直結するほうを先に入れるのが正解です。
- 「若手だけの現場で安全確認が不安」 → 安全支援アプリが先。写真1枚でAIが危険を指摘してくれるので、経験の浅いスタッフの「見落とし」をすぐ減らせます
- 「KYシートが紙のままで、記録が溜まらない・探せない」 → KYアシストが先。KY活動のデジタル化で、過去の事故事例や安全知識がチーム全体に共有されます
- 「安全教育のネタが毎回同じで形骸化している」 → 安全支援アプリが先。実際の現場写真からAIが出す指摘は毎回異なるので、教育資料が自動的にアップデートされます
どちらも月額課金型のクラウドサービスなので、大がかりな初期投資は不要です。まず片方を1〜2か月試してみて、手応えがあればもう一方を追加する——そのくらいの身軽さで始められます。
安全管理AIはどこまで信頼できるか
得意な場面と苦手な場面
AIが力を発揮するのは、写真に「映っている」危険です。
ヘルメットの未着用、足場の手すり不備、開口部の覆い忘れ——目で見てルール違反とわかるものは高い精度で指摘してきます。公式でも「安全確認業務の省力化」「若手職員の教育」への活用が挙げられており、視覚的に明確なパターンの検出はこのアプリの得意分野です。
一方で、写真に映らない危険は原理的に検出できません。
地盤のゆるみ、異臭、異常な温度や騒音——五感で拾うタイプのリスクはAIの守備範囲外です。2Dの写真から奥行きを正確に判断するのも限界があり、「手で揺すると少しグラつく足場」のような、現場にいないとわからない情報は拾えません。
- 目に見えるルール違反(保護具未着用、手すり不備など)
- 写真に映らない危険(地盤・匂い・音・温度)
- 現場固有の経験則が必要な判断
つまり、AIの指摘はあくまで「補助情報」です。最終的な安全判断は、現場を五感で把握できる安全管理者(現場の安全に責任を持つ担当者)が行う——この前提は絶対に崩してはいけません。
現場からの評価と注意点
安全支援アプリは建設DXアワードで最優秀賞を受賞しています。業界内の評価は高く、特に「若手への安全教育」「確認作業の省力化」の面で注目を集めています。
ただし、正直に触れておくべき点があります。安全支援アプリは生成AIを使っているため、同じ写真をアップロードしても、返ってくる指摘の表現や優先順位が微妙に変わることがあります。これは生成AIの仕組み上、避けられない特性です。
だからこそ、出力は「AIのお墨付き」ではなく「気づきの補助線」として受け取るのが正しい距離感です。「AIが問題ないと言ったから大丈夫」ではなく、「AIも気づかなかったリスクはないか?」と考える姿勢を持つことが、このツールを最も活かす使い方です。
建設業以外でも使えるか
安全支援アプリは建設現場向けに開発されていますが、「写真に写る危険をAIが指摘する」という仕組み自体は、他の業種でも成り立つ場面があります。
安全支援アプリは建設現場のデータをもとに学習されている。他業種で使う場合、建設現場と共通する危険(高所作業・重機周辺・保護具着用)は拾えるが、業種固有のリスクをどこまで検出できるかは未知数。
たとえば製造業の工場なら、設備周辺の安全柵の破損、保護具(ゴーグルや手袋)の未着用、通路上の障害物といった視覚的にわかる危険は、建設現場と共通しています。
物流倉庫では、フォークリフト周辺の安全確保、高所の荷積み作業、避難経路の障害物など、写真に映るリスクとの相性がよい場面があります。
プラント(化学工場や発電所などの大型設備)の定期点検でも、配管周りの安全確認や足場の状態チェックなど、建設現場に近い環境であれば活用の余地がありそうです。
ただし、あくまで建設現場のデータをもとに学習されたAIです。たとえば「この化学薬品のそばにこの素材を置いてはいけない」といった業種固有の知識が必要な危険は、拾えない可能性が高いです。
建設業以外で検討するなら、まずデモで自社の現場写真を何枚か試してみて、「どの程度の精度で指摘が返ってくるか」を確かめるのが確実です。
導入条件と費用の目安
契約から運用開始までの流れ
スマホ(iOS・Android)かPCと、Chromeなどのブラウザがあれば動きます。専用サーバーもアプリのインストールも不要。契約すれば即日使い始められます。
安全支援アプリは、NTTドコモビジネスの建設DXサービス群「Smart Worksite」のラインナップに含まれています。
ここで注意しておきたいのが、Smart Worksiteは複数の建設DXサービス(施工管理、測量データ活用など)をまとめたブランドだという点です。安全支援アプリだけを単体で契約できるのか、それともSmart Worksite全体のパッケージ契約が前提になるのかは、公開情報では明確にされていません。
パッケージ契約が前提だと、「安全管理だけ試したい」という場合にコスト面の壁が出てきます。問い合わせの際に「安全支援アプリだけ使いたい」と伝えて、契約形態を最初に確認しておくのが得策です。
通常版とカスタマイズ版の違い
プランは2種類あります。
- 通常版——標準機能をそのまま使えるプラン。追加の設定なしですぐ始められます
- カスタマイズ版——自社の安全基準や過去の事故データをAIに追加で学習させられるプラン
カスタマイズ版は「自社データでAIを育てる」イメージです。たとえば、自社で過去に起きた事故の記録や、独自の安全チェック基準をAIに読み込ませることで、「うちの現場特有のリスク」をより的確に指摘できるようになります。
- 通常版で十分なケース: 一般的な建設現場で、標準的な安全基準(労働安全衛生法の範囲)に沿って安全管理をしている場合。まず試すならこちらから
- カスタマイズ版を検討するケース: 特殊な工法や設備を多く扱う現場、過去の事故データが蓄積されていてそれをAIに活かしたい場合、あるいは自社独自の安全チェック項目がある場合
具体的なデータ形式(写真・テキスト・どんなフォーマットが必要か)や、学習に必要なデータ量、反映までの期間などは公開されていません。カスタマイズ版を検討する際は、自社がどんなデータをどれくらい持っているかを整理した上で問い合わせると、話がスムーズに進みます。
費用の相場感と問い合わせ先
料金は通常版・カスタマイズ版ともに非公開です。カスタマイズ版は企業規模や学習データの量によって変動するとのこと。LANDLOG公式サイトの問い合わせフォームから確認してください。
導入コストを抑えたい場合は、デジタル化・AI導入補助金の活用もあわせて検討する価値があります。AI導入推進枠であれば、補助率が最大4/5(費用の8割を補助)になるケースもあります。詳しくはデジタル化・AI導入補助金2026の活用ガイドで解説しています。

![[シーン] 建設会社のオフィスで、現場監督と安全管理者がパソコンの画面を見ながらAIの分析結果について話し合っている場面](http://ai-mikata.com/wp-content/uploads/2026/06/autopress-47.webp)
「うちの現場で実際に使えるのか」は、デモで自社の写真を試してみるのが一番早い判断材料になります。まずは問い合わせてデモを触ってみて、指摘の精度と使い勝手を自分の目で確かめてください。

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