法務部門の担当者が、AIに「この契約書を確認して」と頼むだけで、数時間後には修正点の一覧が届く。そんな光景が、いまごく普通の会社で起き始めている。
法務・経理でAI利用が189倍に急増
OpenAIが2026年6月25日に公開したレポートが、驚くべき数字を示した。2025年8月から2026年6月までの約10カ月で、企業の法務・経理・採用といった部門の社員によるAIエージェントの利用者数が、189倍になったというのだ。同レポートはOpenAI自身のプラットフォーム利用データに基づく集計だ。
AIエージェントとは、質問すれば答えてくれるAIとは別物だ。「この書類を整えておいて」と頼むと、必要な情報の調査から書類の作成まで、指示された作業を自分で片付けて持ってくる。人間が「聞く」のではなく、仕事を「渡す」存在になった。
急増の主役はエンジニアではない。開発者の伸び率をはるかに上回るペースで、事務系・文系の部門での利用が拡大している。米調査会社ガートナーの調査でも、大企業の40%がすでにAIエージェントを業務に取り入れていることが確認されており、この流れはOpenAIだけの話ではない。ITや開発とは縁遠いはずの法務・経理・採用の担当者たちが、AIに仕事を投げ始めた——それがこのニュースの核心だ。
法務・経理・採用、何を任せているか
189倍という数字の先に、何があるのか。部門ごとに実態を見ていくと、「AIが少し手伝う」という話ではなくなっている。
法務と経理で変わる作業時間
法務では、時間の変化が分かりやすい。世界最大級の法律事務所A&O Shearmanでは、企業買収の際に必要な膨大な資料調査をAIが担い、弁護士3,500人以上に全面導入された。製薬大手モデルナでは、新薬の申請書類の起草にかかる時間が大幅に削減されている。
経理では、日本の経費精算サービスを提供するTOKIUMが「経理AIエージェント」を展開している。出張手配から規定チェック・経費精算までをまとめて自動化するもので、リリースから4カ月で280社が導入した。
採用では、三菱重工業が24時間365日対応のAI面接官を初期選考に組み込み、採用工程が28%速くなった。候補者の回答を統一基準でスコアリングする仕組みだ。
丸一日がかりの仕事も任せるように
任せる仕事の「重さ」も変わってきた。冒頭のOpenAIレポートによると、完了まで1時間以上かかるタスクをAIに頼む割合は、2025年12月の35.4%から2026年5月には70.2%へと倍増している。軽作業の補助から始まったAI活用が、まとまった時間を要する仕事を引き受けるところまで——わずか5カ月での変化だ。
GMOインターネットグループでは、グループ全体でのAI展開を進め、月間35.2万時間分の業務が削減された。部門ごとの小さな試みではなく、会社単位での移行が始まっている。
なぜ今、事務部門で急に広まったか
これほど急速に広まった理由は、AIそのものが変わったことにある。去年までのAIは「聞けば答えてくれる」だけだった。今年のAIは「目標を渡せば、必要な手順を自分で判断して最後まで片付ける」ように変わった。法務・経理・採用の担当者が「これなら任せられる」と判断するだけの変化が、そこにあった。
AIは24時間365日休まず動く。人間のスタッフが退勤した後も、契約書のチェックや経費の仕訳を続ける。処理できる件数に上限がなく、これまで人手が足りず後回しになっていた定型業務にまで手が届くようになった。
Slackが発表したレポートによると、AIエージェントを使う人の96%が「以前はできなかった仕事をこなせるようになった」と答えている。使うかどうか選ぶ時代ではなく、「気づいたら入っていた」時代が始まっている。

