AIには「知識の締め切り日」がある。ChatGPTに「今日の株価は?」と尋ねても答えが返ってこないのは、そのためだ。2026年6月17日、Amazonのクラウドサービス「AWS」がその弱点を補う新機能を正式に公開した。AIが自分でウェブを調べられるようになる——ただし、企業の機密情報を外部に一切送らずに。
AIが最新情報を自分で調べてくる
AIは大量のテキストを学んで作られるが、その学習には「締め切り」がある。ある時点以降に起きたことは、AIの知識に存在しない。昨日のニュース、今日の為替レート、先月施行された法改正——最新状況の把握が必要な業務にAIを使おうとすると、この壁に必ずぶつかる。
その壁を越えるために、AWSは6月17日のイベント「AWS Summit New York」で、「AgentCore Web Search」の一般提供開始を発表した。AWSが企業向けに提供するAI構築サービスに新たに加わった機能で、調査や作業を自律的にこなすAIが、数千億ページ規模のウェブ情報をリアルタイムで参照しながら回答できるようになる。
問題は、そこで終わらない。これまでBingなど外部の検索サービスと連携してAIに情報を調べさせる場合、会社の質問内容や社内データが外部のサーバーに送られる構造になっていた。AWSが選んだ解決策は、Amazonが自社で保有する検索データベースを使うことだ。外部にデータを渡さずに最新情報を取得できる設計になっている。
情報が外に出ない理由
「便利だけれど、会社の情報が外に漏れるなら使えない」——業務にAIを導入しようとしたとき、この懸念が壁になることがある。この機能はAmazonが自社で管理する検索データベースを使って完結する。AlexaやAmazonショッピングを長年支えてきた検索基盤だ。担当者が投げかけた質問も、AIが実行した検索ワードも、返ってきた結果も——すべてAWSのシステム内だけを流れる。外部に何かが記録されることはない。
機密情報を扱う金融機関や医療機関にとっても、競合他社に戦略を知られたくない企業にとっても、この設計は「とりあえず使ってみる」ではなく「業務に組み込む」ための条件になる。
アクセス制御の仕組みも組み込まれており、AIがどの種類のサイトを参照できるかを管理者が設定できる。有害なサイトへのアクセスは自動でブロックされる。既存のAIシステムへの追加に対応しており、料金は検索1回あたり約1円の計算だ。
調査・情報収集の現場が変わる
仕組みはわかった。では実際の現場でどう機能しているか。AWSが公開した導入事例によれば、NTTドコモは全国の通信ネットワーク保守業務にこの機能を取り入れた。全国に散らばる100万台以上の通信機器に異常が出たとき、担当者がウェブで最新の技術情報を手作業で調べていた部分を、AIが代行するようになったという。蓄積された過去のデータと、公開されたばかりの情報を組み合わせた分析が自動で動く。
同じくAWSが紹介する事例では、ソニーグループが社内に積み上がった会議資料やマニュアルと、日々更新されるウェブの最新動向を同時に参照するリサーチエージェントを構築した。担当者がウェブを巡回して情報をかき集めていた作業を、AIが担っている。
セキュリティ企業の株式会社デジナーレでは、システムの欠陥(脆弱性)に関する情報の収集・分析から報告書の作成まで、数時間かかっていた一連の調査をAIが自律的に処理する体制を構築しているとAWSは発表している。人が手を動かす時間をゼロにする——完全自動化を目指した取り組みだ。
3社が取り組む業務の種類はそれぞれ異なる。共通しているのは、「会社の中に蓄積された過去のデータ」と「ウェブ上の最新情報」を組み合わせているという点だ。どちらか片方だけでは答えが出なかった問いに、初めて対応できるようになった。
日本企業の82%がAIエージェントの導入を計画しているという調査がある。これまで人が時間をかけてGoogle検索を繰り返し、情報をかき集めてきた業務調査を、AIが自律的にこなせるようになる。「AIに調べさせる」が、現場の言葉になりつつある。

