犬型ロボットが自衛隊の基地を巡回
夜の駐屯地を、犬のような4本の脚で歩くロボットが一人で見回る。そんな光景が現実に動き始めた。
2026年6月18日、GMOインターネットグループと未来ロボット株式会社は、陸上自衛隊から「警備用ロボット(四足歩行型)システムの導入検証業務」を受託したと発表した。契約の詳細は非公表で、検証場所・期間・台数は明かされていない。四足歩行ロボットとは4本の脚で移動する機械だ。2本脚の人型より段差や砂利道に強く、夜間や悪天候でも自分の位置を正確に把握しながら自律的に動く。AIカメラで不審者や異常を検知すると司令所の管理画面に即時通知する——24時間、人なしで基地の外周を巡察させることが目的だ。将来的には全国約160か所の駐屯地・分屯地への展開を見据えている。
この実証は突然の話ではない。2026年1月の自衛隊訓練には、「やまと」という名の国産四足歩行ロボットがすでに参加し、10キログラムの荷物を積んで不整地を走る性能を披露していた。偵察や調査を想定した動作の検証は、すでに始まっていた。
だがこのロボットには、性能以前にクリアしなければならない条件があった。
なぜ外国製ロボットは使えないのか
「性能の良いロボットはすでにある。なぜわざわざ国産で作るのか」——その疑問への答えが、このプロジェクトの核心にある。
外国製ロボットが抱えるリスク
思い浮かべてほしいのは、スマートフォンだ。外国製のスマホを使えば、カメラや位置情報が製造国のサーバーに送られる可能性がある。実際そうした懸念は各国で問題になってきた。
ロボットも同じ構造を持つ。カメラの映像、巡回ルート、センサーが感知した情報——それらが外国のサーバーに流れれば、軍事施設の構造や警備の弱点がそのまま外部に伝わる。スマホの位置情報漏洩とは次元の違う話だ。
完成品を「買うだけ」では解決しない問題もある。ロボットを動かすソフトウェアや部品の一つひとつに、気づかれないよう仕込まれた「バックドア」——不正アクセスのための抜け道——が潜んでいる可能性を排除できない。これをサプライチェーンリスクと呼ぶ。防衛省が国産にこだわり、部品の出どころを一つひとつ管理できる体制を求めるのはそのためだ。
未来ロボットのfuRouteが防衛要件をクリア
だが、国産であれば自動的に安全というわけでもない。
未来ロボットが開発した四足歩行ロボット「fuRoute(フルート)」は、GMOサイバーセキュリティ byイエラエによる「ペネトレーションテスト(侵入実験)」を経ている。同社の発表によれば、無線による遠隔制御の奪取や通信の傍受といった複数の攻撃手段を実際に試し、システムの穴を探すものだ。ただし、具体的にどの攻撃手段を対象としたか、また評価レポートや第三者認証の有無は公開されていない。
「乗っ取り」を想定したセキュリティ設計
その設計は、攻撃を受けたとき何が起きるかを前提に組まれている。異常を検知した瞬間、ロボットは「フェイルセーフモード」に切り替わり、取得済みの映像や位置情報を自動消去して停止する。電波妨害(ジャミング)で通信を遮断されても、自律帰還機能で安全な場所まで自力で戻る。乗っ取れたとしても、使える情報は残らない——そういう前提で作られている。
全国160駐屯地の警備が変わる
この実証が成功すれば、見える景色は一か所の基地にとどまらない。
全国の陸上自衛隊駐屯地・分屯地は約160か所。防衛省が省内で検討している計画では、警備の自動化によって1日あたり約1,000人分の省人化を見込む。減らした人手の分だけ、隊員を高度な訓練や判断が求められる任務に回す。ロボット導入の本当の狙いは、人を「置き換える」ことではなく「再配置する」ことにある。
関係者が示すロードマップでは、2028年までに技術を成熟させ、2030年代初頭に全駐屯地への配備完了を目指す。今回の実証実験はその入口にあたる。
ロボット一台の実証にとどまらず、駐屯地の警備体制そのものをデジタルで組み直す動きも同時並行で進む。2026年2月には、KDDIとセコムが防衛省から陸上自衛隊向けリモート警備システムの構築を受託している。AIドローンや固定型AIカメラを組み合わせた別の調達だが、方向は同じだ——「人が回る警備」から「機器が常時監視する体制」への転換だ。
自衛隊が今動かそうとしているのは、ロボットを一台加えることではない。全国160か所の駐屯地の警備の仕組みを、根本から作り替えることだ。

