高市首相は6月24日、経済財政諮問会議でAI・半導体などの成長分野に限り、予算要求の上限を取り除く特別枠「強く豊かな日本 投資枠」の創設を表明した。この方針は同日の閣議で決定された「骨太の方針2026」(政府が毎年まとめる経済・財政の基本方針)に明記されている。数字の大きさより本質的に重いのは、支援を「7年間続ける」という確約のほうだ。「来年も続くのか」——企業の投資判断を縛ってきたその不確実性が、制度として取り除かれた。
「上限なし」予算枠、今日何が決まったのか
決定の核心はひとつだ——AI・半導体など成長分野の予算要求に課されてきた上限(シーリング)を外す。シーリングとは、各省庁が財務省に要求できる予算金額の「天井」を指す。これまではどんな成長分野も同じ天井の下に置かれ、他の予算と枠を奪い合ってきた。その制限がなくなる。
あわせて決まったのが、補正予算から本予算への切り替えだ。AI・半導体支援はこれまで、年度途中に追加される「補正予算」として手当てされてきた。補正予算は国会のたびに可否が審議される——毎年「今年も続くのか」が確定しない状態が続いてきた。本予算に組み込まれることで、そのリスクが消える。
補正予算から本予算への移行時期について
現在進行中のプロジェクトの補正予算から本予算への移行時期は、今後の予算編成の過程で詰められる。
政府はこの制度変更を骨太の方針2026に盛り込み、2030年度までの7年間、大規模な公的支援を続ける枠組みを固めた。長期投資に「7年間やめない」という制度的な裏付けが与えられた——これが今回の決定の最大の意味だ。
政府が「7年間続ける」と約束した意味
では、なぜこれほどの制度変更が必要だったのか。答えは企業の側にある。
日本企業が慎重だった本当の理由
半導体工場を1つ建てるには、着工から完成まで5年かかる。費用は数千億円規模だ。これだけの資金を動かすには、「5年後も国の支援がある」という見通しが欠かせない。
ところがこれまでの支援は、単年度主義の壁に阻まれてきた。単年度予算とは、政府の支出を1年ごとに組み直す日本の予算制度のことだ。補助金が翌年も続くかどうかは毎年の国会審議で決まる。企業からすれば、「来年も出るかどうか」は来年になるまで分からない——その状態が続いてきた。
Rapidusへの政府支援は累計2兆3,540億円に達し、ソフトバンクのAIデータセンターには最大300億円の補助金が投じられている。これほどの大型案件が動き出せたのは、個別の政治的決断があったからだ。「続く保証」が制度として存在していたわけではない。
7年確約で何が変わるのか
今回の変更で、その構造が変わる。7年間の継続支援が制度として確約されることで、企業は「5年かけて工場を完成させたとき、まだ国の支援がある」と分かった上で計画を立てられる。
枠組みは整った。次の問いは、企業が実際に大型投資に踏み切るかどうかだ。
17分野に370兆円——何に投じるのか
では、その支援はどこに向かうのか。政府は「戦略17分野」と呼ぶ重点投資領域を定め、2040年度までに官民あわせて約370兆円を投じる目標を立てた。「官民あわせて」という点は重要だ——全額が税金ではなく、政府の支援をテコとして民間企業の投資を引き出す構図になっている。
17分野にはAI・半導体を中心に、宇宙開発や脱炭素(GX)なども含まれる。製造業から医療・エネルギーまで幅広い産業が対象だ。全17分野の詳細は骨太の方針2026の関連資料で確認できる。
AIと半導体への支援——3つの数字を整理する
17分野の中で最も手厚い支援が集中するのが、AIと半導体だ。この分野に関しては3種類の数字が政府文書に登場する。指している対象と期間がそれぞれ異なる。
| 数字 | 内容 | 期間 |
|---|---|---|
| 10兆円以上 | 政府単独の公的支援(AI・半導体分野) | 2030年度まで(7年間) |
| 10.5兆円 | フィジカルAI分野(ロボット・自動運転含む)の計画規模 | 2030年度まで |
| 50兆円超 | 官民合計の投資目標 | 2035年度まで(10年間) |
AI向け半導体の世界市場は2026年に約40兆7,000億円。それが2031年には約130兆円規模——半導体市場全体の約6割——に膨らむとされる(複数の市場調査会社による予測)。この成長市場で日本が席を確保できるかどうかが、今回の予算枠の真の賭けになる。
枠組みはできた。7年後に何が実を結んでいるか——それはこれから問われる。

