建設現場の写真を1枚撮るだけで、AIが危ない箇所を見つけて対策まで教えてくれる——そんなアプリが、いま建設業界で急速に広まっています。開発したのはコマツ子会社のEARTHBRAIN。この記事では、500社以上が導入し建設DXアワード最優秀賞を受賞した「安全支援アプリ」の仕組みと実力を、専門知識ゼロの方にもわかるように紹介します。
安全支援アプリとは何か
EARTHBRAINが開発した背景
安全支援アプリは、建設現場の写真をスマホで撮ってアップロードするだけで、AIが危険な箇所を自動で見つけ、具体的な対策まで提案してくれるクラウドサービスです。特別な機材も専門知識もいりません。「現場の安全管理は経験頼みになりがち」という課題に、生成AIを掛け合わせて生まれました。
業界からの評価
2024年には建設DXアワードで最優秀賞を受賞しています。さらに国土交通省のNETIS(新技術情報提供システム——国が「現場で役立つ」と認めた技術を登録する制度)にも登録されました。
導入企業は500社を超え、業界の中で「ちゃんと使えるツール」として評価が固まりつつあります。
- 2024年・建設DXアワード最優秀賞受賞
- 国土交通省NETIS登録(国が「現場で役立つ」と認めた技術)
- 導入企業500社超
公的な受賞歴と500社の導入実績から、信頼度の高いサービスと見てよいでしょう。ただし詳細な利用データ(継続率など)はまだ公表されていないので、今後の情報開示にも注目しておきたいところです。
「写真1枚で安全診断」とは具体的にどういうことなのか。次のセクションで、実際の仕組みを見てみましょう。
写真1枚でAIが危険を見つける仕組み
撮影からリスク検出までの流れ
やることはシンプルです。スマホで現場の写真を1枚撮って、アプリからアップロードする。たったこれだけ。
約60秒待つと、AIが写真を解析して「この現場のどこが危ないか」を返してくれます。
特別なカメラも、高価なセンサーもいりません。普段使っているスマホのカメラで十分です。
![[図解] 「スマホで撮影」→「LANDLOGクラウドにアップロード」→「生成AIが画像解析+法令・事故DBと照合(約60秒)」→「リスク診断結果を表示」の4ステップを左から右に矢印で示すフロー図](http://ai-mikata.com/wp-content/uploads/2026/05/autopress-8.webp)
裏側では、クラウド上の生成AIが写真を読み取って危険箇所を検出しています。使われているのは画像を理解できるマルチモーダルLLM(大規模言語モデル——ChatGPTなどの基盤技術と同系統のAI)です。具体的なモデル名は公表されていませんが、EARTHBRAINのエンジニアブログによると、生成AIに加えて以下のデータベースを組み合わせて診断しています。
- 労働安全衛生法などの法令データ——建設現場に関係する安全法規を体系的に格納
- 過去の労働災害事例——類似した現場条件で起きた事故情報を蓄積
AIが写真を「見て」危険を検出し、それをデータベースと照合して根拠をつける——という二段構えの仕組みです。ユーザーがこの裏側の処理を意識する必要はありません。
AIが出す対策提案の中身
AIが返してくれるのは、ただの「危ないですよ」という警告ではありません。3種類の情報がセットで出てきます。
- リスクの説明と対策——「この足場は手すりが不十分。単管手すりの設置を推奨」のように、何が危険で何をすべきかを具体的に示す
- 過去の類似事故事例——似た現場条件で実際に起きた事故を提示。「他人事じゃない」と実感できる
- 関連する法令の条文——労働安全衛生法など、根拠となる法律も一緒に出る。是正指示を出すときの裏付けになる
つまり「何が危ないか・過去に何が起きたか・法律的にどうか」が一度に揃います。
これを人力で調べようとすれば、法令集を引き、事故事例データベースを検索し……と半日仕事になりかねない作業です。それが60秒。
さらに、結果に対してチャット形式で追加質問もできます。「この足場についてもっと詳しく教えて」と聞けば、AIが深掘りして回答してくれる。一方通行のレポートではなく、対話しながら理解を深められる設計です。
現場ではこう使う——活用シーン
仕組みがわかったところで、実際の現場ではどう活かされているのでしょうか。代表的な使い方を紹介します。
朝礼前の安全チェック
最もシンプルで効果が大きいのが、朝礼前の活用です。
現場監督が朝イチで現場の写真を1枚撮り、アプリにアップロードする。60秒後にはAIからリスク診断が届くので、その結果を朝礼で全員に共有する——これだけです。準備に5分もかかりません。
従来の朝礼では、監督の経験や記憶に頼って「今日はここに気をつけよう」と話すのが一般的でした。
でもAIが写真から客観的にリスクを指摘してくれると、人間の目では見落としていた箇所にも気づけます。しかも根拠となる法令や過去の事故事例がセットで出るので、「なぜ気をつけるべきか」まで説明できる。
写真1枚・60秒で朝礼の安全ネタが自動生成される。準備5分、根拠つき
西武建設の導入事例では、「同じ現場でも撮る角度を変えると違う指摘が出る」ことが発見されました。毎日同じ話になりがちな朝礼の安全確認に、AIが新しい視点を入れてくれるわけです。
KY活動(危険予知活動——作業前にみんなで「今日はどこが危ないか」を話し合う取り組み)のマンネリ化は、多くの現場が抱える悩み。角度を変えて撮るだけで毎日違う気づきが得られるのは、地味ですが大きな価値です。
若手職員の教育ツール
新人や若手に安全教育をするとき、いちばん難しいのは「なぜ危ないのか」を実感させることです。
ベテランなら経験で「この状況はまずい」とわかりますが、経験のない人に同じ感覚を伝えるのは簡単ではありません。
このアプリを使えば、実際の現場写真に対して「ここが危険で、過去にこんな事故が起きていて、法令ではこう定められている」という説明がAIから出ます。ベテランの経験値に頼らなくても、根拠のある安全教育ができるようになります。
- AIが法令+事故事例で説明(誰でも同じ質の教育ができる)
- ベテランの経験頼み(属人的・言語化しにくい)
若手自身がスマホで撮って試せるので、「自分で危険を見つける目」を養う訓練にもなります。受け身の座学ではなく、能動的に学べる点が教育ツールとして優れているところです。
書類作成と既存の安全管理への組み込み
建設現場では日々の安全記録を書類として残す必要があります。このアプリでは、AIの診断結果をPDFで保存できるので、撮影した写真・検出リスク・対策提案がまとまった状態でそのまま安全書類の添付資料になります。撮って、送って、保存する。手書き報告書の時間を実際の安全対策に回せます。
アプリは既存のKY活動・安全パトロールを置き換えるものではありません。今のやり方にAIの「第三者の目」を一つ足すだけで、見落としを減らせます。
「新しいツールを入れると今のやり方を変えなきゃいけないのでは?」と心配する方もいるかもしれませんが、このアプリは既存の安全管理を置き換えるものではありません。
毎日のKY活動に診断結果を加えてネタ切れを防ぐ、安全パトロール(管理者が定期的に現場を巡回するチェック)の事前準備に使う——今のやり方にAIの「第三者の目」を一つ足すだけで、見落としを減らせます。
こうした使い方に興味が湧いたなら、導入前に押さえておきたいポイントが2つあります。
導入前に確認しておきたいこと
対応環境と料金の目安
PCでもスマホでも、ブラウザからアクセスするだけで使えます。専用ソフトのインストールやサーバー構築は不要です。
クラウドサービスなので、インターネット環境さえあれば現場事務所でも出先でもすぐに始められます。
料金はプランによって異なり、詳細は問い合わせ制です。まずは安全支援アプリの公式ページから問い合わせて、自社の現場規模に合った見積もりを取るのが現実的です。
AIの精度——どこまで信頼できるか
ここは正直に書いておきます。
「AIの検出精度はどのくらいなのか」——これは誰もが気になるポイントですが、現時点でEARTHBRAINは検出率や誤検知率といった定量的なデータを公表していません。
これは生成AIを使った製品全般に言えることですが、写真の撮り方(角度・明るさ・解像度)によって結果が変わりうるため、「精度○○%」と一律に示すのが難しい領域です。
わかっていることを整理します。
このアプリのAIが得意なのは、情報を集めて整理することです。写真から危険箇所を見つけ、関連する法令や過去の事故事例をまとめて提示する——この「調べもの」の速さと網羅性は、人間の作業とは比較になりません。
AIが示すのはあくまで「可能性のあるリスク」です。確定診断ではありません。
写真に写っていない死角のリスクは検出できませんし、天候や地盤の状態など現場でしか判断できない要素もあります。最終的に「この現場は安全か」を判断するのは、現場を知っている人間の仕事です。
| AIに任せられること | 人間がやるべきこと |
|---|---|
| 写真からのリスク検出 | 写真に写らない箇所の確認 |
| 関連法令・事故事例の提示 | 法的責任の判断 |
| 診断結果の記録・PDF出力 | 現場状況をふまえた最終判断 |
まとめ
安全支援アプリは、「写真を撮るだけ」という手軽さで、経験やスキルに関係なく安全管理の質を底上げできるツールです。道具は道具として正しく使う——その前提で活用すれば、500社が現場で実際に使っている実績にも納得がいきます。
まずは公式サイトから問い合わせて、自社の現場で試してみるのが最初の一歩です。

