マイクロソフトが、プログラマー2600万人が使う「GitHub Copilot(コパイロット)」のAIを、OpenAIから自社製に切り替えると発表しようとしている。ChatGPTを作った会社と組んでいたマイクロソフトが、「自前で作る」側に回った。誰のAIを使うか——それは単なる技術の話ではなく、ビジネスの主導権をめぐる問いでもある。
来週の開発者会議で発表される新AI
6月2〜3日、「Build 2026」と呼ばれる開発者向けの大型発表会が開かれる。今年の目玉は、GitHub Copilot向けの自社開発コーディングAI(コードを書く作業を助けるAI)だ。
マイクロソフトはすでに今年4月、「MAI」(マイ)と呼ばれる独自のAIシリーズを文字起こし・音声・画像の3分野で稼働させている。今回のコーディングAIはそのMAIシリーズの延長線上にある。「これから作る」ではなく、稼働済みのシリーズに加わる形だ。
プログラマー向けAI市場では、「Claude Code」や「Cursor」といった他社のコード支援ツール(コードを書く作業を自動化するAIサービス)にシェアを奪われている。開発者向け調査会社Stack Overflowの2025年調査では、GitHub CopilotのAIツール利用率が前年比で約10ポイント低下したと報告されている。自社技術で巻き返す狙いがある。
この転換の背景にあるのはコストだ。MAIシリーズの音声AIでは処理コストを従来比50%削減できると、AI部門トップのムスタファ・スレイマン氏が2026年1月の決算説明会で明らかにしている。マイクロソフトのAIビジネスの年間売上は約5.5兆円(370億ドル)、前年比123%増で急拡大中だ。これほどの規模になれば、コスト構造のわずかな改善が数百億円単位の差になる。
なぜOpenAIから自立する道を選んだのか
マイクロソフトはこれまで、OpenAIのAIを「借りて」使ってきた。使った分だけ利用料をOpenAIに払う構造だ。AIビジネスが急拡大するほど、その支払いも比例して膨らんでいく。
OpenAIとの独占契約を解消した
転機は2026年4月だ。マイクロソフトはOpenAIとの独占的な提携契約を解消した。AGI(汎用人工知能——人間と同等以上の知性を持つことを目指すAI)を自社単独で追求する権利を得た形だ。ただし完全な決別ではなく、Azure(アジュール)と呼ばれるクラウドサービス上でOpenAIのモデルを顧客向けに提供し続ける非独占の関係は維持される。「独占をやめる」のであって、「縁を切る」わけではない。
スレイマン氏は同月の社内向け発表で「OpenAIへの支払いを減らすことが最優先だ」と明言している。技術者の言葉ではなく、経営者の言葉だ。AIをどこから調達するかは、今や技術の選択ではなく、財務の問題になっている。
自社製の部品で動かす
コスト削減を可能にしたのは、マイクロソフトが独自に開発した半導体(AI処理に使うコンピューター部品)だ。OpenAIのAIは外部メーカーの部品に依存しているが、自社製なら処理効率を自分たちでコントロールできる。借り物の仕組みではなく、自前の設計で動かすAI——この違いが、コスト構造を根本から変える。外部への支払いが減れば、その分が利益に直結する。MAIシリーズで実証した「コスト半減」は、この自社製部品なしには実現できなかった。
企業への影響、値上げと従量課金
では、そのコスト削減の恩恵は企業ユーザーに届くのか。現時点では、逆の動きが起きている。
M365が65%値上げ
2026年7月から、Microsoft 365(マイクロソフト365)の最上位プランの月額料金が約1万4500円(99ドル)になる。現行プランの約8700円(60ドル)から65%の引き上げだ。AI機能が標準搭載される代わりに、料金は6割以上跳ね上がる。「処理コストを半分にした」と言う同じ会社が、同時に「料金を65%上げる」——この数字を、読者はどう受け取るか。
Copilotが従量課金に移行
料金の仕組み自体も変わりつつある。これまでは「1人あたり月いくら」という定額制が主流だったが、「使った分だけ払う」従量課金への移行が進んでいる。マイクロソフトが2026年初頭に発表した自社調査によれば、顧客対応(カスタマーサービス)分野のマイクロソフト法人顧客のうち約6割がこの方式に切り替えたという。
使えば使うほど費用は積み上がる仕組みだ。マイクロソフトが削減したコストが、企業側の請求書にどう反映されるか——その答えはまだ出ていない。

