0.305秒でキューブを解く、人間の10倍速
まばたきが終わる前に、ルービックキューブは解けていた。
2024年5月21日、三菱電機のロボット「TOKUFASTbot」が、6面すべてをそろえるまでの時間を0.305秒に縮め、ギネス世界記録に認定された。人間の世界チャンピオン、マックス・パーク氏が2023年に打ち立てた最速記録は3.13秒。TOKUFASTbotはその約10倍速い。
この数字を実感するには、まばたきと比べるのが一番早い。人間が一度まばたきをするのにかかる時間は、おおよそ0.1〜0.3秒。つまり、目を閉じて開ける間に、キューブはすでに完成している。
ロボットがこの記録に到達するまでには、15年かかった。2009年、ロボットが初めて世界記録を打ち立てたときのタイムは1分4秒だった。2016年に1秒の壁を破り、2024年に0.305秒へ。かつてMIT(マサチューセッツ工科大学)が持っていた記録は0.38秒——TOKUFASTbotはそこからさらに0.075秒削った。
まばたきより速い記録を出したのは、どこかの巨大研究所ではなく、工場の若手エンジニアたちだった。
若手エンジニアが2年かけて作ったロボット
わくわくPJから始まった
このロボットは、上からの指示で生まれたわけではない。三菱電機のコンポーネント製造技術センターに所属する20〜30代の若手エンジニアたちが「面白そうだからやってみたい」と手を挙げ、2022年9月、社内の若手挑戦制度「わくわくプロジェクト」として動き出した。
開発リーダーを務めた徳井氏の名前は、そのままロボット名になった。「TOKUFASTbot」のTOKUは徳井氏から取られている。業務の合間を縫いながら約2年——チームが最初に掲げた目標は「0.4秒を切ること」だった。それだけで、すでに世界記録になる数字だった。
1回目はキューブが壊れた
記録挑戦の当日、1回目の試技は失敗に終わった。機械の性能が足りなかったからではない。逆だ——ロボットが速すぎて、キューブ自体が壊れた。おもちゃの強度が、機械の能力に追いつかなかった。
2回目で刻んだタイムは0.305秒。練習でも一度も出なかった数字だった。徳井氏は後に「運であり、愛と情熱の結晶」と振り返っている。
0.3秒を可能にした技術の正体
キューブを壊すほどの速さ——その正体は2つの技術だ。
精密制御が指の速さを生む
キューブの1面を90度回すのにかかる時間は、わずか0.009秒。新幹線が1ミリ進む時間より短い。この動きを実現したのは、工場の製造ラインで実際に稼働している産業用サーボモーターだ。家電や電子部品を作る現場で普通に使われている市販品である。特殊な研究機材は一切ない。
このモーターはもともと、工場で部品を0.001ミリ単位で動かすために精度を磨いてきた。その「微細な制御」の技術が、今度はキューブを操る指の速さとして現れた。
AIが高速回転中に色を読む
速く回すだけでは解けない。ロボットはまず、54マスの色を全部読まなければならない。TOKUFASTbotに搭載されたAIは、色の判別を10ミリ秒(0.01秒)以内に終わらせる——しかも面が猛スピードで回転している最中に。照明の反射も、キューブごとの色の微妙な差も、補正しながら読み取る。
挑戦前の準備は地味だった。市販のクリーナーでキューブの表面を丁寧に磨き、色の読み取りを安定させた。世界記録の裏に、そういうアナログな積み重ねがある。
同じ技術が今日も工場で動いている
三菱電機はギネス挑戦の目的を、公式プレスリリースで「工場向け機器のポテンシャルを広く知ってもらうこと」と明示している。記録そのものが目的ではなく、日常に溶け込んだ自社技術の存在を可視化するための挑戦だった。
TOKUFASTbotを動かしたモーターの国内シェアは約40.5%(同社発表)。あなたが使うスマホの基板も、乗っている車のパーツも、その多くはこの技術が稼働する工場で作られている。
2025年5月、米パデュー大学のロボットが0.103秒を記録した。三菱電機が2024年に打ち立てた0.305秒は、1年も経たずに塗り替えられた。工場の汎用技術が世界記録を出したその瞬間から、この競争は加速している。

