朝起きたら、仕事が進んでいた
スマートフォンを開くと、昨夜届いたメールはすでに整理され、今日の会議の資料も手元に揃っている。「今日はまずこれをやるといい」という提案まで届いている——そんな朝が、もうすぐ現実になるかもしれない。
Googleは現在、「Remy(レミー)」というコードネームのAIを社員向けに内部テスト中だ。自社サービスを社員自身が使って問題を洗い出す手法で、Geminiアプリの中で動いている。米テクノロジーメディア「The Information」の報道によれば、Googleの社内資料においてRemyは「24時間365日稼働するパーソナルエージェント」と説明されている。GmailやGoogleカレンダーと連携し、ユーザーが寝ている間にメールの整理やスケジュール調整、資料収集を自律的に進める。朝になると「昨夜片付けたこと」と「今日の最適な行動プラン」がまとめて届く「Your Day」という機能が含まれている。
これは「話しかければ答えてくれるAI」とは根本的に違う。指示を出さなくても、自分の代わりに動く——その点でAIの役割は一歩先に進んでいる。正式な発表は、2026年5月19〜20日に開催されるGoogle I/O 2026で行われるとみられている。
寝ている間に何が起きているのか
メールと予定を自動整理
たとえば夜中に「明日午前中までに返信を」という急ぎのメールが届いたとする。Remyはその緊急度を判断し、対応の準備を進める。翌日の会議の出席者が変更になれば、スケジュールを自動で調整する。必要な資料があればGoogle Driveから先に集めておく——ユーザーが眠っている間に、だ。
こうした先読みができる理由がある。RemyはGmailの受信履歴、Googleカレンダーの予定、過去のチャット内容、そして位置情報までを組み合わせて文脈を読む。「この会議の相手に最後に連絡したのはいつか」「明日の朝、移動が必要か」——そうした情報をもとに、次にとるべき行動を判断する。
これだけのデータを扱うとなると、気になるのはプライバシーだ。The Informationの報道によれば、Remyが読み取ったデータはGoogleの既存のプライバシーポリシーの範囲内で処理され、第三者への販売は行われない設計だという。Remyにアクセスさせるサービスの範囲や、蓄積した個人データの確認・削除は、Googleアカウントの管理ページから操作できる仕組みが検討されている。詳細な設定方法は、正式発表時に明らかになる見込みだ。
翌朝に最適プランが届く
朝届く「Your Day」には、夜のうちに片付いた内容と、今日の優先事項がまとめて届く。Remyが作った「今日の作戦表」だ。
このAIにできること
指示なしでアプリをまたいで動く
これまでのAI——ChatGPTへの質問や、Googleへの検索——は、こちらが聞けば答えてくれる「賢い辞書」だった。Remyはそこから一歩先にいる。こちらが何も言わなくても、自分で判断して動く。
操作の起点はGeminiアプリひとつだ。ウェブサイトを開いて調べ、飲食店を予約し、商品を購入し、ドキュメントを相手に共有する——これらをRemyが代わりにやってくれる。「来週の出張に合わせてホテルを探しておいて」という文脈を読み取れば、GoogleマップやウェブサイトをRemy自身が操作して手続きを完了させる。アプリを個別に開いて、検索して、フォームに入力して、という手順をすべて引き受ける形だ。
Remyには「Agent Files(エージェント・ファイルズ)」と呼ばれる個人専用の記憶領域がある。好みの宿泊スタイルや、仕事で使う承認フローのルールなど、ユーザーの習慣を蓄積していく仕組みで、使えば使うほど判断の精度が上がっていく。
全操作を自分で確認できる
「自分が知らない間に、AIが勝手に買い物をしていたら?」——この不安への答えとして、Remyの操作履歴はすべて残る設計になっている。何をいつやったか、ユーザー自身があとから一覧で確認でき、必要であれば取り消せる。自律的に動くが、ブラックボックスにはしない、という方針だ。
「眠っている間に動くAI」はRemyだけではない
この方向に動いているのはGoogleだけではない。Microsoftはすでに「Microsoft 365 Copilot」を法人向けに提供しており、OutlookやTeamsのメール・会議内容を自動で要約し、次のアクションを提案する機能を持つ。Appleも「Apple Intelligence」でiPhoneの通知整理や文章生成を端末内で処理する仕組みを導入済みだ。いずれも「自律的に動く」という方向性は共通しているが、Remyが他社と異なるのはGmail・カレンダー・マップ・ドライブという広大なGoogleのサービス群を横断して操作できる点にある。Appleは個人情報をクラウドではなく端末内で処理することをプライバシーの強みとしており、設計思想の違いが今後の競争軸になりそうだ。
いつ自分が使えるようになるのか
現時点では、Remyを使えるのはGoogleの社員だけだ。一般公開の時期は、まだ正式に発表されていない。
次の節目として注目されているのが、2026年5月19〜20日に開かれるGoogleの年次イベント「Google I/O 2026」だ。ここで正式な発表が行われる可能性が高いとみられている。ただし、発表があったとしても、すぐに誰でも使えるようになるとは限らない。
ただし、「代わりに動くAI」はすでに他人事ではなくなっている。Microsoftの調査によれば、世界の企業の約79%がすでに何らかのエージェント型AIを業務に取り入れているという。Remyはその最前線にある一例に過ぎない。
Remyが示しているのは、一つの転換点だ。「使いたいときに呼びかけるAI」から、「自分が何もしなくても、先に動いているAI」へ——その変化の入り口に、私たちは今いる。

