社内で使っているWebサービスが増えるほど、「誰がどのサービスのアカウントを持っているか」の把握が難しくなります。
APIに対応していないサービスは手作業で確認するしかなく、特に退職者のアカウント管理は後回しにされがちです。この記事では、SmartHRが新たにリリースした「ブラウザ自動操作」機能で何が変わるのか、そしてどこに限界があるのかを率直に整理します。
API非対応サービスの壁をどう超えるか
サービス同士がデータを自動でやり取りする仕組み(API)に対応していないWebサービスは、まだまだたくさんあります。大手SaaSと違い、ニッチな業務管理ツールや業界特化型のサービスでは、API連携の口が用意されていないケースが珍しくありません。
そういったサービスのアカウント管理は、管理者が実際にログインして、ユーザー一覧画面を目で見て確認するしかありませんでした。社員の入退社があるたびに、一つひとつ画面を開いて確認する——地味だけど、確実に時間を食う作業です。
SmartHRが2026年5月13日にリリースした「ブラウザ自動操作」機能は、この壁をAIの力で超えようとしています。
AIが画面から情報を読み取る仕組み
やっていることはシンプルです。AIがWebサービスのアカウント一覧画面を「見て」、そこに表示されている情報を自動で読み取ります。
人間が目でやっていた「画面を開いて、誰のアカウントがあるか確認する」という作業を、そのままAIに代行させるイメージです。
SmartHR側にそのサービスのログイン情報を設定しておけば、あとはブラウザの拡張機能(Chromeに追加できる小さなプログラム)を通じて、自動的にアカウント情報を取得してくれます。
設定に専門知識がいらない理由
この手の自動化ツールは「設定が難しそう」というのがよくある不安です。
SmartHRのブラウザ自動操作では、AIが対象サービスの画面構造を自動で解析し、「どの列がメールアドレスか」「どの列がユーザー名か」といったデータ項目を自動で提案してくれます。
管理者がやることは、対象サービスのアカウント一覧ページのURLを指定して、AIの提案を確認するだけ。プログラミングの知識は不要です。
詳しい設定手順はSmartHRのヘルプセンターにまとまっています。
ブラウザ自動操作で何ができるのか
先行導入したかぶらやグループの事例では、1サービスあたりの確認作業が最短1分で完了し、最大90%の工数削減を達成しています。
従来は管理者がサービスに1つずつログインして目視チェックしていた作業が、ほぼ自動化されたわけです。
ただし、この機能は「見る専用」です。アカウントの作成や削除といった操作はできません。あくまで「誰のアカウントがあるか」を自動で読み取って一覧にする機能——そこを押さえた上で、具体的に何ができるのかを見ていきましょう。
対応サービスと取得できる情報
ブラウザ自動操作で取得できるのは、対象サービスのアカウント一覧画面に表示されている情報です。
具体的には、メールアドレス、ユーザー名、利用ステータスなど、その画面に表示されている項目をAIが自動で読み取ります。
気になるのは「自社で使っているサービスが対応しているか」ですよね。
正直なところ、現時点では対応サービスの完全なリストは公開されていません。AIがWebサービスの画面構造を解析して情報を取得する仕組みのため、理論上は「アカウント一覧画面があるWebサービス」なら対象になり得ますが、画面の作りによってはうまく読み取れないケースもあります。
自社で使いたいサービスが対応しているかは、SmartHRのお問い合わせフォームから直接確認するのが確実です。問い合わせの際は「ID管理オプションのブラウザ自動操作で、○○(サービス名)のアカウント情報を取得できるか」と具体的に聞くとスムーズです。
取得データの活用イメージ
一番わかりやすい使い道は、退職した人のアカウントが残っていないかの確認です。
退職者のアカウントが放置されたままだと、不正アクセスの入口になりかねません。セキュリティ事故の温床です。
でも手作業では、サービスが増えるほど確認が追いつかなくなります。
ブラウザ自動操作で取得したアカウント情報は、SmartHRのID管理画面に集約されます。
API連携しているサービスも、ブラウザ自動操作で取得したサービスも、同じ画面で一元管理できるのがポイントです。サービスごとに管理画面を行き来する手間がなくなり、「このサービスにまだ山田さんのアカウントが残っている」といった状況を一覧でパッと把握できます。
| 管理方式 | 自動取得 | 管理画面 | 対象サービス |
|---|---|---|---|
| API連携 | ○(リアルタイム) | SmartHR ID管理画面 | API対応サービス |
| ブラウザ自動操作 | ○(定期取得) | SmartHR ID管理画面 | API非対応サービス |
| 手作業 | ×(都度ログイン) | 各サービスの管理画面 | すべて |
これまで「API連携できないサービスは手作業で管理するしかなかった」のが、ブラウザ自動操作によって同じ土俵に乗るようになった——これが一番大きな変化です。
時間削減シミュレーション
では実際、どのくらい時間が浮くのか。
社員100名規模の会社で、API連携できないサービスが10個あるケースを考えてみます。
従来の手作業では、1つのサービスにログインしてアカウント一覧を開き、退職者がいないかを目視で確認するのに約10分かかるとします。10サービスで月100分(約1時間40分)。これを毎月やるとなると、年間で約20時間です。
かぶらやグループの実績をもとに、ブラウザ自動操作で90%削減できたとすると——
| 項目 | 手作業 | ブラウザ自動操作 |
|---|---|---|
| 1サービスあたり | 約10分 | 約1分 |
| 10サービス/月 | 約100分 | 約10分 |
| 年間 | 約20時間 | 約2時間 |
年間で約18時間の削減です。
「たかが18時間」と思うかもしれませんが、これは確認作業だけの話です。実際には、確認結果をExcelにまとめたり、上長に報告したりする付帯作業も含めると、体感はもっと大きいはずです。
そして、時間以上に大きいのは「確認の頻度が上がる」ことかもしれません。
手作業だと面倒で月1回がやっと、というケースでも、自動化されていれば週次や日次でチェックが回せます。確認の間隔が短くなれば、退職者アカウントの放置期間もそれだけ短くなります。
この機能ではできないこと
便利な機能だからこそ、できないことを正しく知っておくほうが導入後のギャップが少なくなります。
書き込み操作と即時同期の制約
アカウントの作成・削除・権限変更といった「書き込み」操作には対応していません。
つまり、退職者のアカウントを見つけたとしても、削除するには結局そのサービスにログインして手作業で消す必要があります。
「発見」は自動化されるけれど、「対処」は手動のまま——ここは割り切りが必要です。
もうひとつ。データの取得はリアルタイムではなく定期取得です。
具体的な取得間隔(何時間ごと・何日ごとなど)は、現時点で公式には明示されていません。導入を検討する際は、SmartHRに「自社の運用に合った取得頻度が設定できるか」を確認しておくことをおすすめします。
入退社が多い月と少ない月では求められるタイミングが違いますし、「退職日の翌日にはアカウントの有無を確認したい」といった運用要件がある場合は特に重要なポイントです。
なお、SmartHRの公式リリースでは「今後は書き込み操作への対応も視野に入れている」旨の記載があります。具体的な時期や範囲は未定ですが、進化の余地がある機能として捉えておくとよいでしょう。
もうひとつ知っておいてほしいのは、この機能の立ち位置です。SmartHRのID管理には「API連携」「CSV取込」「ブラウザ自動操作」の3つの方式がありますが、最も確実なのはAPI連携です。リアルタイムでデータを取得・更新でき、画面変更の影響も受けません。
ブラウザ自動操作は、あくまで「API連携もCSV取込もできないサービス」のための補完手段。使えるサービスにはAPI連携を優先し、それが無理なものだけブラウザ自動操作でカバーする——この優先順位が大事です。
設定時に起きやすいトラブル
AIが画面を「見て」情報を読み取る仕組みだからこその弱点もあります。
相手サービスの画面デザインが変わると、読み取りが止まることがあります。
Webサービスは頻繁にUIを更新します。画面のレイアウトが変わると、AIが「どこに何の情報があるか」を見失い、動作設定の再調整が必要になる場合があります。
「一度設定したら永久に動く」とは思わないほうがいいでしょう。
また、ブラウザ拡張機能を経由する仕組みのため、社内のセキュリティポリシーで拡張機能のインストールが制限されている環境では、そもそも利用できないケースもあります。
導入前に、自社のブラウザ管理ポリシーを情シス担当者に確認しておきましょう。
導入前に知っておくべきこと
「使ってみたい」と思ったら、動き出す前に2つだけ確認しておきましょう。
セキュリティと認証情報の扱い
前のセクションでも触れましたが、ブラウザ自動操作では対象サービスのログイン情報をSmartHRに預ける形になります。
これは機能の仕組み上避けられません。自社のセキュリティポリシーで外部サービスへの認証情報の預託が許可されているか、情報システム部門と事前にすり合わせておくことが導入の前提条件です。
SmartHR自体は、第三者機関によるISMSクラウドセキュリティ認証(ISO 27017)やSOC2 Type1報告書を取得しており、セキュリティ体制の整備は進んでいます。
とはいえ、「SmartHRのセキュリティが万全だから預けてOK」と即断するのではなく、自社のポリシーと照らし合わせて判断するのが正しい手順です。具体的には以下を情シス担当者に確認しましょう。
- SmartHRに他サービスのID・パスワードを登録してよいか
- 預けた認証情報の暗号化方式や保管方法がポリシーに合致するか
- 多要素認証が必要なサービスではどう対応するか
これらがクリアにならない限り、機能の検討は先に進みません。
料金プランと利用条件
ブラウザ自動操作を使うには、SmartHRの「ID管理」オプションの契約が必要です。SmartHRの基本プランだけでは利用できません。
基本プランだけでは使えない。ID管理オプションの追加契約が必要です。
料金は公開されておらず、企業規模や契約内容によって変わるため、SmartHRに直接問い合わせる必要があります。
導入を検討するなら、まずはSmartHRの公式サイトから「ID管理オプションの見積もり」を依頼するところからです。問い合わせの際に、自社で使いたいAPI非対応サービスのリストも一緒に伝えると、対応可否の確認もまとめてできて効率的です。

