「外来が終わっても、まだカルテが残っている」——医療現場ではよく聞く言葉です。実は診察時間のおよそ半分が、電子カルテへの入力に費やされているというデータもあります。この記事では、「話すだけでカルテが完成する」と注目を集めるユビー生成AIの仕組みと、導入した病院で実際に何が変わったのかを紹介します。
音声だけで診療記録が完成する仕組み
病院の診察室を思い浮かべてください。医師が患者さんと話しながら、パソコンに向かってキーボードを打っている——あの作業が「カルテ入力」です。
日経の報道によると、現在は診察時間のおよそ半分が電子カルテの入力に費やされています。15分の診察なら、7〜8分は画面に向かっている計算です。
患者さんと目を合わせる時間が、書類作業に食われている。これが多くの医療現場のリアルです。
ユビー生成AIは、この「打つ作業」を「話すだけ」に変えるサービスです。提供しているのはUbie株式会社(2017年設立)。「テクノロジーで人々を適切な医療に案内する」をミッションに掲げ、症状検索エンジン「ユビー」で知られる医療AIスタートアップです。
ChatGPTのような汎用AIとは違い、医療用語やカルテの書式に特化して作られています。病院のシステム内で動くため、患者データが外部に出ていく心配もありません。
![[図解] 従来のカルテ作成(医師がキーボードで手入力)とユビー生成AI導入後(医師が話すだけでAIが下書き)を左右で比較するBefore/Afterフロー図](http://ai-mikata.com/wp-content/uploads/2026/05/autopress-26.webp)
話すだけでカルテになる3ステップ
医師が患者さんと会話する内容を、AIがリアルタイムで聞き取り、文字に起こします。特別な話し方は不要で、いつも通りの診察をするだけです。
文字に起こされた内容を、AIがカルテのフォーマットに沿った文章に自動で整形します。「患者さんの訴え」「検査の結果」「今後の治療方針」といった項目ごとに振り分けてくれるので、一から書き直す必要がありません。
できあがった下書きを医師がチェックし、必要に応じて修正してから保存します。
ここが一番大事なポイントです。AIが勝手にカルテを確定することはありません。あくまで「下書き」であり、最終判断は必ず医師が行います。
ChatGPTやGoogleのAIと何が違うのか
「カルテの下書きなら、ChatGPTでもできるのでは?」と思うかもしれません。
実際、汎用AIに音声テキストを貼り付けてカルテ風の文章を作ること自体は可能です。でも、医療現場で「使い物になるか」は別の話です。
| 比較項目 | ChatGPT等の汎用AI | ユビー生成AI |
|---|---|---|
| カルテ書式 | 医療書式を知らない。出力を手動で整形する必要がある | カルテの項目(訴え・所見・方針など)に自動で振り分け |
| 電子カルテ連携 | 連携機能なし。コピペで転記する手間が発生 | 富士通・NECなど主要ベンダーの電子カルテと連携。下書きを直接取り込める |
| 患者データの扱い | 入力内容が外部サーバーに送信される | 院内ネットワークで完結。患者データは外部に出ない |
| 過去カルテの活用 | 過去の記録を読み込めない | 電子カルテ内の既往歴・検査結果を参照して下書きに反映 |
一番大きな違いは、電子カルテシステムと直接つながっていることです。
汎用AIでは「AIに文章を作らせる→コピーする→カルテに貼り付ける→書式を整える」という手間が残りますが、ユビー生成AIなら下書きがそのまま電子カルテに入ります。
さらに、過去の入院記録や検査データも自動で参照するため、「前回の入院時に何があったか」を医師がいちいち探し直す必要がありません。
紹介状・退院サマリも自動で下書き
医師の書類仕事は、カルテだけではありません。患者さんを別の病院に紹介するときの「紹介状」、入院していた患者さんが退院するときの「退院サマリ」(入院中の経過をまとめた報告書)——こうした文書が日々積み上がっていきます。
ユビー生成AIの公式ページによると、電子カルテにすでに記録されている患者情報——入院理由や検査結果、治療経過——をAIが読み込んで、紹介状や退院サマリの下書きを自動で作ってくれます。
もちろんここでも、AIが作るのは下書きまで。確認・修正してから使うルールは同じです。
そして使えるのは医師だけではありません。導入事例を見ると、看護師が記録する「看護サマリ」やリハビリスタッフの記録作成にも活用されています。
書類仕事に追われているのは医師だけではない——その現実に、ちゃんと対応しているサービスです。
医師の残業はどれだけ減るのか
仕組みはわかった。でも気になるのは「本当に現場で使えるのか?」ということだと思います。
ここからは、実際にユビー生成AIを導入した病院の数字を見ていきます。結論から言うと、想像以上の差が出ています。
琉球大学病院の2.33倍データ
最もインパクトのある数字から紹介します。
琉球大学病院のプレスリリースによると、緊急転院の際に作成する「入院初期記録」——これまで2時間かかっていた作業が、ユビー生成AIの導入後はわずか5分で終わるようになりました。
2時間が5分です。駅のホームで電車を1本見送るくらいの時間で、あの面倒な書類作業が片付く計算になります。
- 緊急転院時の入院初期記録:2時間 → 5分に短縮
- 臨床研究の業務効率:2.33倍に向上
さらに同じ琉球大学病院では、臨床研究に関わる業務の処理速度が2.33倍になったと報告されています。
「2.33倍」と言われてもピンとこないかもしれません。これは「同じ勤務時間で、2倍以上の仕事をこなせるようになった」という意味です。1時間に1.85件だった処理が4.31件に増えた——余った時間は研究や患者さんとの対話に回せます。
他の病院でも同じ効果が出ている
これが1つの病院だけの話なら、「たまたまうまくいっただけでは」と思うかもしれません。
でも、同じような効果は他の病院でも確認されています。
新古賀病院の事例では、医師の業務時間が月30時間以上削減されました。看護添書(患者さんの情報を他の施設に送るための書類)の作成時間にいたっては70%カットです。
| 病院 | 主な成果 |
|---|---|
| 琉球大学病院 | 入院初期記録 2時間→5分、臨床研究2.33倍 |
| 新古賀病院 | 月30時間以上削減、看護添書70%短縮 |
| 恵寿総合病院 | 看護サマリ42.5%削減+心理的負担27.2%軽減 |
そして数字に表れない効果もあります。恵寿総合病院の取り組みでは、退院時の看護サマリ(入院中の看護記録をまとめた報告書)作成時間が42.5%削減されただけでなく、看護師の心理的負担が27.2%軽減されたという調査結果が出ています。
「時間が減った」だけでなく「気持ちが楽になった」。書類仕事のプレッシャーから解放される実感は、数字以上に現場にとって大きいはずです。
AIカルテは信用できるのか
仕組みも効果もわかった。でも「AIが医療に使われて、本当に大丈夫?」という疑問は当然あると思います。
結論から言えば、心配すべきポイントは2つだけです。「AIが間違えたらどうなるか」と「患者のデータは安全か」。それぞれ見ていきます。
誤りへの対策と医師の最終責任
AIは万能ではありません。医療に特化して作られていても、的外れな下書きが出てくる可能性はゼロではないです。
ただし、ユビー生成AIの場合、ここに明確な歯止めがあります。
AIが作るのはあくまで「下書き」です。医師や看護師が必ず目を通し、修正してから保存する——この手順を飛ばすことはできません。
AIが勝手にカルテを確定することはない。下書きを医師が確認・修正して初めて正式な記録になる
つまり、AIが間違えても、そのまま記録に残ることはありません。
最終的な判断と責任は、これまでと同じように医師が持ちます。AIはあくまで「下書きを代わりに書いてくれるアシスタント」であり、判断を任せる相手ではないのです。
患者データはどう守られるか
もう一つの不安は、「自分の診療データがAIに読まれて、外に漏れたりしないか」という点です。
ここは比喩ではなく、具体的な仕組みを説明します。
ユビー生成AIは、病院の内部ネットワークだけで動きます。患者さんのデータがインターネットを通じて外に出ることはありません。AIが下書きを作る処理も、すべて病院のシステム内で完結します。
先ほどの比較表でも触れましたが、ここがChatGPTなどの汎用AIとの決定的な違いです。汎用AIは入力した情報が外部サーバーに送られるのに対し、ユビー生成AIではデータが病院の外に出る経路そのものがありません。
Ubie株式会社は、国が定めた医療情報の安全管理基準に準拠した運用体制を整えています。公式ページでも、安全なセキュリティ環境での運用を明示しています。
導入時には各病院の情報セキュリティ部門による審査をクリアしたうえで運用が開始される。大学病院レベルの厳格な基準を通過している点は信頼材料の一つ。
すでに1,800以上の医療機関が使い続けていること自体が、「本当に安全なのか」という問いへの実績ベースの答えです。
導入の費用感と始め方
「効果はわかった。で、いくらかかるの?」——これが一番気になるところだと思います。
正直に言うと、ユビー生成AIの料金は公式サイト上で公開されていません。病院の規模(病床数)、利用する診療科の数、使う機能の範囲によって変わるため、個別見積もりが基本です。
「月額いくら」と一律で言えないのは、病院ごとに電子カルテの種類も運用も違うため。導入時のカスタマイズが必要になるケースもあり、一律料金では対応しきれないのが実情です。
ただし、費用面でのハードルを下げる仕組みはあります。
- 診療報酬改定の追い風: 2026年度の改定で、AIを活用した業務効率化が診療報酬の評価対象に加わりました。つまり、導入コストの一部を診療報酬で回収できる道が開けています
- 補助金の活用: 公式リリースによると、Ubie株式会社はIT導入補助金など各種補助金の活用サポートも提供しています
- 段階的な導入が可能: まず特定の診療科や病棟で試験導入し、効果を確認してから全体に広げるステップを踏めます
費用の具体的な見積もりは、公式サイトの問い合わせフォームからデモ依頼と合わせて確認できます。
「まず話を聞いてみる→デモで実際の画面を見る→試験導入」という流れが一般的です。
医療AIの波はどこまで広がるか
ユビー生成AIは現在、大学病院10施設以上を含む全国1,800以上の医療機関に導入されています。
でも、これはまだ始まりにすぎません。ここからは「この先、何が変わるのか」を見ていきます。
注目すべきは、2026年度の診療報酬改定です。AIを活用した業務効率化が公的に評価される仕組みが整ったことで、「便利そうだけど、うちはまだいいか」と様子見だった施設が動き始めています。
国が「AIを使って効率化してください」と制度で後押ししている。これは単なるトレンドではなく、医療の仕組みそのものが変わり始めているサインです。
そしてカルテ作成は、AIが医療現場に入る「最初の一歩」にすぎません。
公式リリースによると、Ubie株式会社は生成AIの活用範囲を広げており、カルテ以外の医療文書——たとえば診断書や意見書の作成支援、さらには過去のカルテ情報をもとにした診療サポートまで視野に入れています。
![[シーン] 診察室で医師が患者と向き合って会話している場面。パソコン画面にはAIが作成したカルテの下書きが表示されているが、医師の視線は患者に向いている](http://ai-mikata.com/wp-content/uploads/2026/05/autopress-25.webp)
厚生労働省が進める「医師の働き方改革」では、勤務医の時間外労働に上限が設けられています。その残業時間のうち約25%が書類作業に費やされているという調査もあり、AIによる書類作成の効率化は制度面でも不可欠な流れになりつつあります。
「医療にAI」と聞くと、診断をAIに任せるような未来を想像するかもしれません。でも今起きていることは、もっと地に足のついた話です。書類を減らして、医師が医師の仕事に集中できるようにする。その当たり前を実現するところから、医療AIは動き出しています。
まとめ
カルテや書類に追われる時間を減らし、患者さんと向き合う時間を増やす。ユビー生成AIが現場にもたらしているのは、そのシンプルな変化です。
気になった方は、まず公式サイトからデモを申し込んでみてください。自分の病院の電子カルテと連携できるか、どの業務に効果が出そうかを具体的に確認できます。

