「診察が終わったあと、パソコンに向かってカルテを打ち込む時間——なんとかならないか」。そう感じている医療従事者は多いはずです。2026年6月、スマホで録音するだけで診察メモを自動作成し電子カルテに貼れる「メドコムAI議事録」が登場しました。月額0円から使えるとうたっていますが、本当に現場で役立つのか。料金の実態から導入前に確認すべきことまで、率直に整理します。
メドコムAI議事録の正体
「AI議事録」という名前ですが、会議の議事録ツールではありません。主な使い道は、患者さんへの説明や診察内容の記録です。
やることは3つだけです。
![[図解] 「スマホで録音」→「AIが文字起こし・要約」→「QRコードで電子カルテに出力」の3ステップを左から右に矢印でつないだフロー図](http://ai-mikata.com/wp-content/uploads/2026/06/autopress-46.webp)
スマートフォン1台で録音からカルテ出力まで完結するので、紙のメモも、あとからの清書も要りません。医師がやる操作は「録音を押す」と「QRコードを読み込む」、この2つだけです。
開発したのは医療IT企業のメドコムで、2026年6月1日に販売を開始したばかりの新サービスです。「議事録」と名前がついていますが、院内会議だけでなく、患者への病状説明や治療方針の記録にも使えます。日々の診療で発生する「説明した内容」をその場で残せるのが、このサービスの本来の狙いです。
月額0円の実態
「月額0円」は本当です。ただし、その先がわかりません。
公式のプレスリリースに書かれている料金は「月額費用 0円〜(利用規模・プランにより異なります)」の一文だけです。
無料で使える入口は確かにあります。しかし「〜」の先——どのくらい使ったら有料になるのか、何人まで無料なのか、録音時間に上限はあるのか。こうした具体的な条件は、2026年6月時点では一切公開されていません。
「0円〜」の「〜」以降の料金条件は非公開です。導入を検討する際は、メドコムへ直接問い合わせて具体的な条件を確認してください。
正直なところ、この情報不足は気になります。ただ、販売開始したばかりのサービスです。料金体系がまだ固まりきっていない可能性もあるでしょう。
それでも「タダで始められる入口がある」こと自体は、小さなクリニックにとって悪い話ではありません。高額な年間契約を結んでから「うちの診療には合わなかった」と気づく最悪のパターンを避けられるからです。無料プランはあくまで「お試し」と割り切るのが正解です。
診察後の「清書の30分」が消える
タダで試せるとして、それで日々の何が変わるのか。ここが一番大事な話です。
手書きメモの「二度手間」が一発になる
今の業務を振り返ってみてください。患者さんに説明しながらメモを取る。診察が終わったら、そのメモを見ながらカルテに清書する。「その場で書く」→「後で清書する」の二度手間が、毎日の診療に組み込まれています。
メドコムAI議事録を使うと、この清書の工程がまるごと消えます。録音しておけば、あとはカルテに貼れる状態で要約が出てくる。カルテ作成に毎日2時間かけている現場にとって、この変化は小さくありません。
![[シーン] 医師がスマホを机の上に置き、メモを取らずに患者に向き合って説明している場面](http://ai-mikata.com/wp-content/uploads/2026/06/autopress-45.webp)
一番わかりやすい場面は、患者さんへの説明です。
インフォームドコンセント(IC)——つまり治療内容を説明して同意を得る場面では、今は話しながらメモを取るので手が止まり、説明が途切れます。録音に任せれば、医師は説明と患者さんの反応に集中できます。
院内カンファレンスや多職種会議でも同じです。「あのとき何を決めたっけ?」——手書きノートをめくって探していた時間が、テキスト検索で一瞬に変わります。
要約の精度は自分で確かめるしかない
正直に言います。AIが作る要約がどの程度正確かは、現時点で判断材料がほぼありません。
先行して活用した病院からの評価が公表されているものの、具体的な精度データ(文字起こしの正確さや、要約で落ちる情報の割合など)は開示されていません。医療用語の認識精度も不明です。
だからこそ「無料で試せる」ことに意味があります。自分の診療で録音して、出てきた要約をカルテに使えるレベルか確認する。これが一番信頼できる判断方法です。要約をそのまま使うのか、下書きとして手直しするのか——その感覚は自院で試さない限りわかりません。
録音データはどこへ行くか
「便利なのはわかった。でも患者さんの録音データは大丈夫なのか」。当然の疑問です。
メドコムAI議事録は「テナント分離方式」を採用しています。平たく言えば、同じシステムを使っていても病院ごとにデータの部屋が完全に分かれていて、他の病院からは一切見えない仕組みです。
マンションの各部屋に別々の鍵がかかっていると考えてください。
ただし、公開情報だけでは確認できない点が残っています。
- サーバーが国内にあるか、それとも海外か
- AIが録音データを学習に使わないか
- 自院の電子カルテと本当に連携できるか(QRコード読み取り対応が前提)
もうひとつ忘れてはいけないのが、患者さんへの事前説明です。「この診察を録音させていただきます」と伝える手順が新しく加わります。AIの性能以前に、この運用ルールを院内で決めておくことが先です。
効果が大きい現場・薄い現場
こうした業務変化がどの現場に合うかは、はっきり分かれます。
効果が大きいのは、録音する会話が長くて多い現場です。インフォームドコンセントに時間をかける外科・腫瘍科・精神科、多職種カンファレンスが週に何度もある病院。手書きメモから解放される時間が大きいほど、導入する意味があります。
恩恵が薄いのは、処置や採血だけで会話がほとんどない診療です。スマホ操作に不慣れなスタッフが多い環境も、定着しにくいでしょう。
また、スマホ1台で複数の診察室やカンファレンスをカバーするなら、「誰がいつ持つか」の段取りも考えておく必要があります。
まず試す、聞くのはそのあと
出たばかりのサービスだからこそ、公開情報だけで「導入する・しない」を決めるのは早計です。
一番リスクの少ない進め方はこの順番です。
自分の診察で、要約の精度と使い勝手を確かめる
有料プランの料金条件、データの保管場所、AIがデータを学習に使うかどうか、自院の電子カルテとの互換性
初期投資ゼロで始められるなら、情報が揃うのを待つより先に触ったほうが早い。会議を録音しなくてもAIが答える——TeamsとCopilotの新常識のような大企業向けのAIと違って、このサービスはスマホ1台あれば今日から試せます。触ってみて、合わなければやめればいい。それが月額0円の最大のメリットです。
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