2026年4月17日、役所専用のAIサービス「zevo(ゼヴォ)」に、新しいAIが追加された。追加されたのは「Claude Opus 4.7」——AIアシスタント「Claude(クロード)」シリーズの最新モデルで、米国のAI企業Anthropic(アンソロピック)が開発している。zevoを開発・運営するシフトプラスは、宮崎県都城市と現場の声を積み上げながら共同開発したプロダクトで、同日からzevoを利用するすべての自治体への提供を開始した。
すでに都城市では9割以上の部署がzevoを導入し、シフトプラスが都城市職員を対象に実施した調査では、約8割が「仕事が楽になった」と回答している。実験段階の話ではない。
今回のアップデートがニュースになる理由は、搭載したAIの「新しさ」だけではない。役所がAIを使おうとしたとき、ずっと立ちふさがってきた構造的な2つの壁を、このアップデートが同時に崩したからだ。
役所がAIを使えなかった理由
総務省が2026年3月にまとめた調査では、生成AIを導入済みの都道府県は87.2%に達している。ところが市区町村まで広げると、その数字は29.9%に落ちる。この差は「やる気の差」ではない。小さな自治体ほど乗り越えにくい、構造的な壁があった。
閉じたネットワークの壁
役所には「LGWAN(総合行政ネットワーク)」と呼ばれる専用の回線がある。住民の個人情報を守るために、外のインターネットから完全に切り離された閉じたネットワークだ。
ChatGPTもClaudeも、通常はインターネット経由でデータをやり取りするサービスである。LGWAN内の端末からは、そこに直接アクセスできない。「使えばいいのに」という話ではなく、物理的につながっていないのだ。
zevoはこのLGWAN問題をすでに解決していた。職員のブラウザからLGWAN経由で直接アクセスできる独自の仕組みを構築し、閉じたネットワークの内側から使える環境を整えてきた。ただ、もう一つの壁が残っていた。「処理が日本の外で行われる」問題だ。
企業がClaudeを業務システムに組み込む際によく使われるのが、Amazonのクラウドサービス「Amazon Bedrock(アマゾン・ベッドロック)」だ。ただし、これまでのClaudeのモデルはAmazonの米国にあるサーバーで処理が行われていた。住民の個人情報を含むデータが海外に出るリスクを抱えたまま使うことを、多くの自治体は認めにくかった。
膨大な資料という壁
もう一つの壁は資料の量にある。条例、議事録、過去の事業記録——役所の仕事は膨大な文書に支えられている。AIに断片的に読ませると文脈を拾えず、事実とは異なる回答を返す「ハルシネーション」が起きやすくなる。住民への回答に誤りが混じることは行政として許されない。一度に大量の文書をまとめて読み込めることが、役所でAIを使う上での必須条件になる。
2つの壁が同時に崩れた
この2つの壁に、Claude Opus 4.7が同時に答えを出した。
データが日本の外に出なくなった
Claude Opus 4.7は、Amazon Bedrockを経由する場合でも、日本国内の東京・大阪にあるサーバーだけで処理が完結する。これは従来のClaudeモデルにはなかった対応だ。住民の個人情報が海外に出ることはない。
zevoはLGWAN経由でのアクセス基盤をすでに持っている。今回、その上で動くAIの処理場所が日本国内に限定されたことで、ネットワークとデータ保護、2つの懸念が同時に解消された形になる。
数年分の資料を一括で読む
もう一方の壁、「資料の量」にも答えが出た。Claude Opus 4.7は「100万トークン」の入力に対応している。トークンとはAIが一度に処理できる情報の単位で、日本語に換算すると約75万文字——A4用紙に換算すれば3,000枚以上に相当する。従来のAIが数十ページ分しか扱えなかったことと比べると、次元が違う。
断片的にしか読めなければ、AIは文脈を見失いやすい。一度にまとめて読ませられるようになったことが、誤回答のリスクを下げる。都城市では、議事録作成にかかる時間が年間2,800時間から1,400時間へと半減したと報告されている。
2つの制約が、1つのモデルの進化によって同時に解消された。Claude Opus 4.7はすでにzevoを使う全自治体への提供が始まっている。ただし、AIが下調べをし、最終判断は職員がする——この構造は変わらない。道具が揃った今、まだAIを導入できていない7割の市区町村が、それを実際に使いこなせるかどうかは、これからの問いだ。

