好業績なのに8750人を削減
2026年4月23日、マイクロソフトは従業員の約7%にあたる8,750人に「辞めてくれないか」と打診した。マイクロソフトが打ち出した大規模な早期退職プログラムだ。
普通、リストラは会社が苦しいときにやるものだ——だがマイクロソフトは今、苦しくない。直前の四半期の売上高は813億ドル(約12兆円)、前年より17%伸びている。また、年間の純利益は初めて1,000億ドルを超えた。過去最高の業績を更新した直後に、8,000人以上に退職を求めた。
「経営が苦しいから人を切る」ではない。では、なぜか。
その答えはお金の行き先にある。同じ四半期に、マイクロソフトはAIのインフラ設備に375億ドル(約5.5兆円)を注ぎ込んだ——前の年の同じ時期より66%多い額だ。人が書いていた仕事を、機械が肩代わりし始めた。
AIに投資するために人件費を削る
17兆円をデータセンターへ
一四半期で5.5兆円——では、一年間では?
マイクロソフトが今年度に投じるAI設備投資は、最大1,450億ドル(約17兆円)になる見通しだ。日本の防衛費のおよそ3倍にあたる規模である。この資金の大半が向かうのは、GPUと呼ばれる計算チップを何万個も並べた巨大な施設——データセンターだ。ChatGPTのようなAIが瞬時に答えを返せるのは、こうした「工場」が世界中で稼働しているからだ。
会社の財布の中で、「人に払う費用」と「AIの設備に払う費用」が席を奪い合っている。マイクロソフトは今、人よりも機械に金を使うほうが得だと判断した。
「自主退職」という手法
8,750人への打診は、一斉解雇ではなく自主退職の形をとった。対象条件は「年齢と勤続年数の合計が70以上」のベテラン社員(部長職以下)。長く会社に貢献してきた人材ほど対象になりやすい——AI投資の玉突きで、経験豊富な人材が職を失うという皮肉な構図だ。退職金の詳細な条件は公表されておらず、申請期限を含む補償パッケージの全容は明らかになっていない。
削減は全部門に及んでいるが、Xbox(ゲーム)部門や一部のエンジニアリング職が対象に含まれることが複数の報道で確認されている。一方、AIとCopilot関連のチームは削減対象から外れており、「どこを残し、どこを減らすか」という選択が、会社の優先順位をはっきりと映している。同じ週、Facebookの親会社メタも8,000人を強制解雇しており、この動きは1社にとどまらない。
AIはすでに現場で動き始めている
コードの3割はAIが作成
人員削減の背景には、数字がある。
マイクロソフトの社内では、エンジニアが書くプログラムのうち約3割を、すでにAIが自動生成している。10本のコードを書いていたところが、今は7本で済む——残りの3本はAIが作るからだ。同じ量の仕事をこなすのに必要なエンジニアの数は確実に減る。削減の背景にあるのは、業績悪化でも経営ミスでもなく、この「置き換え」だ。
仕事を代替する18ヶ月見通し
これはプログラマーだけの話ではない。
マイクロソフトのAI部門の最高責任者、ムスタファ・スレイマン氏は今年4月、複数のメディアへの発言の中でこう述べた。「今後18ヶ月以内に、パソコンを使うデスクワークの大部分がAIに自動化される可能性がある」。事務、分析、企画——画面の前に座って仕事をするすべての人に関わる見通しだ。
求人はAIへ移り始めた
マイクロソフトはAIとCopilot関連チーム以外の新規採用を凍結した。どの職種を止め、何を採るか——その選択が、会社の本音を最も正直に映している。
この変化はマイクロソフト1社にとどまらない。LinkedInが2024年に公表した雇用動向レポートによれば、AI関連の役割で新たに生まれた雇用は130万件にのぼる。仕事は消えているだけでなく、形を変えて生まれてもいる——ただし、生まれ変わった先の席に自分が座れるかどうかは、まったく別の問題だ。
採用側の姿勢も変わっている。経営者の8割が「経験よりもAIを使える能力を優先して採用する」と回答しており、同じ職種でもAIスキルを持つ人の給与はそうでない人より最大56%高い。資格や年数よりも「AIを使いこなせるか」が、報酬を決める軸になりつつある。
好業績なのに人を減らし、AIに兆単位の金を注ぎ込む——この構図はすでに、マイクロソフト1社の話ではなくなっている。

