AI導入・開発はAIのミカタにお任せください お問い合わせ

Meta、ニューズコープと記事提供で合意 AI学習向け3年1.5億ドル

  • URLをコピーしました!

フェイスブックやインスタグラムを運営するMeta(メタ)が、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)などを傘下に持つ米大手メディア企業・ニューズコープ(News Corp)と、AI向けコンテンツ契約を結んだ。2026年3月のことだ。

3年間・総額1.5億ドル、WSJやNYポスト記事をMeta AIに提供

契約期間は3年間、総額は最大1億5000万ドル(約225億円)——年額に直すと5000万ドル(約75億円)になる。MetaはWSJ、ニューヨーク・ポスト、タイムズ、サン、バロンズ、マーケットウォッチといったニューズコープ傘下メディアの記事を取得し、AIアシスタント「Meta AI」の回答生成と、AIモデルの学習データの両方に使える権利を得る。対象は現在の記事にとどまらず、19世紀まで遡るアーカイブも含まれる。

この契約を結んだMetaは、ほんの4年前にニュースを「不要」と切り捨てた会社だ。

目次

Metaは4年前、Facebookからニュースを切り捨てた

2022年、MetaはFacebook上に設けた「Facebook News」タブへの資金提供を打ち切り、機能を段階的に縮小した。さらにカナダとオーストラリアでは、ニュース配信そのものを停止している。

なぜか。ニュース記事を読んでも、ユーザーはFacebookに長くとどまらない。広告収益も増えない。「ニュースはSNSのビジネスに貢献しない」——それがMetaの出した結論だった。

メディア業界には静かな諦めが広がった。巨大テック企業にとって、ニュースは必要ないのだ、と。その判断からわずか数年後、同じMetaが年額75億円でニュースを買い戻すことになる。間に何があったのか。

なぜMetaは手のひらを返したのか

AIの「嘘」という弱点が引き金に

AIアシスタントが普及するにつれ、ある問題が深刻になってきた。AIは質問に答えるとき、事実かどうかに関係なく、もっともらしい文章を生成してしまう。本来ないはずの出来事を「あった」と断言したり、間違った情報を自信たっぷりに答えたりする。OpenAIとGoogle、そしてMetaが競うAI市場では、この「嘘をつくAI」問題が信頼性の核心になっていた。そのうちOpenAIとGoogleはすでにメディアとの契約でこの弱点を補い始めていた。Metaは出遅れていた。

信頼できる最新ニュースは、この問題を抑える素材になる。AIがWSJの記事を根拠に「〇〇によると」と答えられれば、でたらめを言いにくくなる。正確な情報を学習すればするほど、AIの答えは信頼に近づく。Metaが「不要」と切り捨てたニュースが、AIにとっての「正確さの土台」になった。

ニューズコープ「払うか訴えるか」の逆転戦略

ニューズコープCEOのロバート・トムソンは、この交渉を「まず口説いて、ダメなら訴える」戦略と表現した。Perplexity(AI検索サービスの一つ)など複数のAI企業を著作権侵害で訴える構えを見せながら、同時に誠実な交渉テーブルに座る——という二段構えだ。

交渉の切り札は、先行するOpenAIとの契約だった。2024年に成立したこの合意は、複数の米メディアが年額5000万ドル規模と報じている。これを「相場」として提示し、MetaにもOpenAIと同額を要求した。Metaはその要求を受け入れた。

トムソンCEOは契約後、「ニューズコープは本質的にAIインプット企業だ」と宣言した。ニュースの価値が「読者に届けること」から「AIを正確にすること」に移ったと、自ら認めた言葉だ。

Meta AIの回答は何が変わるか

この取引は、業界内の話にとどまらない。Meta AIを使ったことがある人なら、近いうちに変化を感じるはずだ。

出典リンクが回答に表示される

AIが質問に答えるとき、その根拠としてWSJやNYポストの記事リンクが画面に表示されるようになる。「どこから持ってきた情報かわからない」という不安が、多少は和らぐ。

ただし皮肉な側面もある。AIが完結した回答を返すほど、ユーザーはニュースサイトをクリックしなくて済んでしまう。Googleが2024年に検索結果へのAI要約表示を本格展開した後、欧米の複数の報道機関が検索経由のサイト流入の減少を報告している。対価を受け取りながらも読者を失い続ける——メディアがそれを「ゼロクリック問題」と呼ぶ構造は、この契約によって解消されるわけではない。

WhatsAppやスマートグラスにも展開

ニューズコープの記事を使ったAI回答は、Meta AIのアプリだけにとどまらない。世界で20億人以上が使うWhatsApp(ワッツアップ)や、メガネ型デバイス「Meta Ray-Ban」にも同じ仕組みが展開される。毎日使うメッセージアプリで何気なく打ち込んだ質問の回答の裏に、WSJの記事が使われている——そういう世界が静かに動き始めている。

この契約で割を食うメディアがある

MetaのAI契約がWhatsAppやスマートグラスまで広がりを見せる一方、その恩恵にたどり着けないメディアがある。

今回の契約から、ニューズコープ傘下のオーストラリアの新聞——デイリー・テレグラフやヘラルド・サンなど——は除外された。MetaもニューズコープもこのA除外について公式な説明を行っていない。ただしオーストラリアには、Metaが過去に激しく対立した「メディア取引法」(ネット企業がニュースを使う際に対価を払うことを義務づける法律)があり、業界関係者の間ではこの法律への対応が背景にあるとの見方が出ている。WSJと同じグループに属しながら、対価は届かない。

この格差は、ニューズコープ内だけの話ではない。報道ベースの数字だが、GoogleとニューズコープのAI契約は年額約600万ドル——MetaやOpenAIの年額5000万ドルと比べると8分の1以下だ。AIへの依存度が高い企業ほどメディア側の交渉力は上がる。裏を返せば、力関係が弱い相手との交渉では、金額は跳ね上がらない。

そしてニューズコープほどの交渉力すら持たない媒体は、もっと厳しい立場に置かれる。訴訟を起こすリソースも、Metaの幹部が電話を取るほどのブランド力もない地方紙や専門メディアは、AIに記事を使われても対価を請求する手段を持たない。

英国では、出版社団体がAI企業との交渉に向けた集団ライセンスの枠組みを整備中だ。個別交渉では太刀打ちできない中小メディアが共同で交渉テーブルに立てる仕組みで、制度化に向けた議論が進んでいる段階にある。AIがニュースに対価を払う時代が来た——しかし今のところその恩恵はWSJクラスの大手に集中している。誰がAIの「信頼できる情報源」になれるかをAI企業が決める構造が変わらないうちは、この矛盾は解けないままだ。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

目次